Team Chaotix  -後編 『形見』-




 ―――――― あれから月日は流れ、いくつもの年を越えた。

          そして、今・・・――――――








 サァ、と 風が吹き、森の木が動く。
木漏れ日の中、一人 線香を立て、手を合わせる者がいた。
―――― エスピオだ。

 そして、エスピオの前には一つ、墓が立てられてあった。

「(・・・母上・・・)」

 目を閉じ、風を感じていた・・・その時だった。



「・・・よぉ、エスピオ。 こんなとこにいたのかよ?」

 後ろから声をかけられ、エスピオは反射的に目を開けた。
その声は、ベクターでもチャーミーでもない。
 エスピオは ゆっくりと後ろを振り向いた。

「・・・!? 何故おぬしが・・・!?」
「お、ちゃんと 覚えててくれたか?」
「・・・当然だろう」 エスピオは苦笑しながら息を吐いた。「・・・クロウ・ザ・ウルフ」

 赤色のアクセサリーをつけた、黄色の狼。
そう、声の主は クロウだったのだ。
 ・・・だがしかし、クロウは捕まったはず・・・

「何故、おぬしがここに? ・・・まさか、脱獄したわけじゃあるまいな?」
「何言ってんだ、そんなはずないだろ? ちゃんと許可貰ってきたんだからさ」

 勝手に脱獄者にすんなよ、と クロウはおおげさに手を振って笑って見せた。

「ここの警察は 随分と甘いのだな」
「そーでもねぇよ」 クロウは はぁ、とため息をつき、言葉を続ける。「刑務所から出られるのは
 一日だけだし、あそこ 結構辛いところなんだぞ~?」

 クロウの言葉に、エスピオは ふと笑みを浮かべた。
どうやら、元気でやっているようだ。

「・・・ところで、お前は何でここに? カオティクスはどうした?」
「カオティクス事務所には、年に一度 長期休暇がある。 今はそれで休業中だ」

 クロウは「ふ~ん」と 相槌を打って、頭の後ろで手を組んだ。

「ゆっくり休めるその機会を、こっちの墓参りに費やすなんて 立派なもんだな」
「そうでもない」 エスピオは首を振ると、墓のほうを見た。「・・・母上と会えるのは、この休みしかないからな」

 クロウから見えたエスピオの横顔は、どこか悲しげだった。
・・・やはり、親と会えないのは 辛いことだろう。

 少し、沈黙が続く。
優しく 風が吹き、ゆらゆらと木が揺れた。

「・・・て、本来の目的忘れてた」 クロウはハッと思い出すと、沈黙を破った。「エスピオに、
 一言 伝えたいことがあってここに来たんだ」
「『伝えたいこと』?」

 エスピオは墓からクロウへ視線を移し、不思議そうな顔をした。

「・・・・・」

クロウは一瞬口を閉ざすと、こう言った。


「・・・・ごめんな」


「え・・・・?」

 クロウの声は、本当に申し訳ないというように 小さく発せられた。
エスピオは驚き、困った顔をしてクロウを見た。

「・・・おぬしが謝ることはなかろう・・・?」
「だって・・・俺のせいで、お前の人生が滅茶苦茶になって・・・
 俺のせいで、お前の母親が居なくなっちまって・・・!」

 次第に大きくなる声にも気付かず、クロウは言葉を続けた。

「俺のせいで・・・っ、お前は辛い目にあって・・・!
 この重い罪は、どうすれば償えるのか・・・俺にはわかんねぇ・・・!
 俺は・・・」
「殺人は、確かに重い罪だ」 エスピオはクロウのもとへ歩み寄った。「・・・だが、自分を責めることなんてなかろう? その罪は 牢の中で償えばいい。
 ・・・それに、そんなに苦しんできたのなら―――― 殺人の罪も、償えるはずだ。
 そうだろう?」

 エスピオはそっと、クロウの肩に触れた。
顔を伏せ、クロウは歯を食いしばる。

「・・・本当は、おぬしがそんなに苦しむ必要はなかったはずだ。
 自分の父親が、おぬしの父親を殺さなければ・・・事件は免れたものの・・・
 結果として事件は起きてしまい、そしておぬしを巻き込んでしまった。
 ・・・申し訳ないと思うのは、こちらのほうだ」
「でも・・・その事件のきっかけは、俺の父親の差別で・・・・。
 俺の父親が、種族差別なんてするから・・・
 それなら、謝るのは・・・」

 クロウが、「ごめん」と言おうと口を開きかけたその時、エスピオは首を振った。
それに気がつくと、クロウは反射的に口を閉ざす。

「・・・どっちにせよ、謝るのは自分達ではないようだな。
 ―――― 自分も、おぬしも・・・巻き込まれたほうだからな」

 そう言ったエスピオの表情は、とても優しげだった。

「・・・許してくれるのか?」
「何を今更」 エスピオはきっぱりとそう返した。「クロウが居たから自分はここにいる。
 今まで――― 嬉しいことも、辛いことも、全て含めて――― 色々なことがあったからこそ、自分はここに居る。
 おぬしを憎んではいない、といえば嘘になるが 自分は後悔していない」

 エスピオは優しく微笑み、クロウを見た。
クロウは驚いたような表情を見せ、そして つられて微笑んだ。

「・・・そだな」

 その顔は、少し嬉しそうだった。
胸のつかえが、ほんの少しだが 取れた気がした。

「・・・・なんか 似てるな、俺たち」

 エスピオは突然のクロウの言葉に、きょとんとした。

「似ている?」
「同じ境遇にいるからなのかも・・・・なんか、似てるなと思って。
 そう思った理由は俺にもわかんないけど・・・」

 クロウが頬を掻いて恥ずかしそうにそういった―――― その時。


ふ・・・・っく、ははははは・・・!」
「なっ、なんだよっ!?」

 エスピオの笑い声に、クロウはますます恥ずかしくなってしまった。
・・・エスピオの笑顔は、初めてだ。

「そんなに変かよ・・・」
「いや・・・」 エスピオは笑いをこらえて、クロウを見た。「似ている、か・・・。
 考えたこともない発想だ、と 思ってな」
「それって、やっぱり 変ってことじゃねぇかよ」

 むっとクロウは口を尖らせると、「すまない」と エスピオは笑いながら謝った。
・・・笑いながら謝る、というのも変な感じだ。
 クロウは思わずつられて笑ってしまった。



―――――― ようやく、分かった。

         彼は、自分を許してくれていたのだ。



 クロウはそれを確認し、ふと微笑むと 首にさげていたアクセサリーをはずし、
そして エスピオにそれを差し出した。

―――― ?」
「俺の母親の形見―― 持っててくれよ」 クロウは微笑んだままそう言った。「俺、
 もう行くからさ・・・
 お前にバカな狼の知り合いがいました、ぐらい 覚えててくれよ」

 ほら、と クロウはエスピオの母親の形見を押し付ける。
エスピオは反射的に受け取ってしまった。
赤い宝石のようなものが、光を受けてチカリと光る。
エスピオがそれを受け取ったのを確認すると、クロウは無言で彼に背を向け 歩き出した。

―――― !」

 クロウが、行ってしまう。
これを受け取ってもいいのか、どうすればいいのか、エスピオには分からなかった。
 ただ、やり残した事があるのでは――― と、そう思えた。
このままでは、きっと 悔いが残ってしまう。

「・・・待て、クロウ!!」

 エスピオは呼び止め、クロウのもとへ駆けつけた。
ピタリと、クロウの足が止まる。
 不思議そうな顔をして、彼は振り返った。

「これを」

 すっ、と エスピオはクロウに何かを差し出した。
それは、一つの小さなお守りだった。

「母上の形見だ」
「な・・・・っ? いいのかよ、そんな大事な物・・・」
「ああ」 エスピオはお守りについている紐を持ち、少し前に差し出す。「おぬしが持っていてくれ。 貰いっぱなしも性に合わない。
 それに・・・自分は、何かがあるごとにそのお守りに頼っていた。
 だが、これからはそうはいかない。 ・・・これからは、甘えてられないのでな。
 おぬしに、馬鹿なカメレオン族の知り合いがいました、ぐらい 覚えててほしい」

 エスピオはそう言ったが、クロウはまだ納得していないようだった。
そんなクロウを見て、エスピオは ふと息を吐く。

「誰も『あげる』とは 言っていないぞ?」
「へ?」

 エスピオの言葉に、クロウは素っ頓狂な声を上げた。

「おぬしが罪を償い終わったときは、きっと お互い育っているだろう。
 その時には、そのお守りを返してもらう。
 だから、『貸す』だけだ」

 ふと、エスピオは微笑む。
クロウは驚いたままだったが、微笑み返し 彼の母親の形見を受け取った。

「んじゃあさ、俺が罪を償い終わったら またここで会おうぜ」

クロウは周りを見回し、エスピオを見た。

「その時は、俺のアクセサリーも返してくれよ。
 ・・・そして、お互いの母親の形見を返した、その時は―――― 」


「『お互いの心が分かり合える、友になろう』―――― か?」


 彼の言葉の続きを、エスピオが続けた。
面食らったようにきょとんとしたクロウは、ニッと 満面の笑みを浮かべた。

「わかってんじゃん」

 クロウはそういうと、手を差し伸べた。

「また、この地で会うこと―――― 約束しよう」

 エスピオは彼にならい、手を差し伸べる。






 約束を交わすように

 二人はお互いの手を握り締めた。






「それじゃあ―――― 」

 クロウの言葉を合図にするかのように、二人はゆっくりと手を離した。

「また、いつか」

 ぬくもりの残った手を、胸の前で きゅっ、と握った。
その手には、赤色のアクセサリー。

 クロウは微笑みをエスピオに向けると、後ろを振り向いて 再び歩き出した。
彼は、背を向け 歩きながら、手を振ってみせる。
その中指には紐がかかってあり、小さなお守りがゆらゆらと揺れた。


 そして、彼は遠くなり 見えなくなっていった。




  「―――― 約束だぞ」




 エスピオは聞こえないと分かっていても、去っていった彼にそう告げた。







 森の木の枝で見え隠れする太陽の光で、アクセサリーは光り輝いた。
 ―――――― 今日も、良い天気だ。





















ちーむかおてぃくす あとがき

全てのカオティクスファンさんすみませんでした。

掲載日:07 2 12 Mon.