Team Chaotix  -中編-3 『真実、そして』-




 「――――――― !」

 ベクターは振り向いた。 煙幕の効果は消え、今では遠くまで見える。
何故振り向いたのか 自分でも分からない。 だが・・・何かを感じた。

「・・・・エスピオ?」


 ―――― 胸騒ぎがする。

 ベクターは感じるがまま、前へ進んだ。
ジャングルのような庭を突き進み、視界がひらけたところに出た――― その時だった。

「・・・・!!」

 ベクターは目を見張った。
 エスピオは腕を掴まれ、膝をついていた。 力が入っていないらしく、首はだらりとうなだれている。
もはや エスピオの体はボロボロだ。
そして、エスピオの腕を掴んでいたのは・・・ターゲット、クロウだった。

「・・・・クロウ、って いったな・・・
 エスピオに何しやがった・・・」
「ちょっと気絶してもらっただけだ。 そんな怒なよ、命に別状はねぇって。
 人質になってもらおうと思ってな」

 ベクターはそれを聞き、一歩前へ踏み出す。

「止まれ」 チャキ、と 銃を取り出し、銃口をエスピオに向ける。「それ以上近寄るな。
 こいつを殺すぞ。
 それとも・・・自分を代わりに殺してくれ、ってか?」
「心配ねぇ」 ベクターは短くそう言うと、また一歩踏み出した。「お前は 俺もエスピオも殺せやしねぇ。  だから、俺もエスピオも死にゃしねぇ」

 ベクターはゆっくりと、また 一歩踏み出す。
クロウは眉をひそめる。

「・・・正気か?
 こいつの代わりに、お前を殺すぞ」

 そう言うと、クロウはベクターに銃を向けた。

「どーぞ、ご勝手に。」

 ベクターは大げさに両手を上げてみせる。

「・・・てめぇ・・・本当に死にたいみたいだな・・・。」
「言っただろ? 俺もエスピオも死にゃしねぇって」

 恐れもせず、ベクターはそう言葉を返し―――― そして、また一歩 二人に近づいた。

「てめぇ・・・・やっぱ、死にたいみたいだな・・・・」
「言っただろ? 俺もエスピオも 死にゃしねぇって。 それとも・・・―――― 」

 ベクターはにやりと嘲笑うかのように、口の端を上げた。

――――― 殺すのが怖いのか?」
「・・・・・ッ貴様!!!」

 クロウはキッとベクターを睨みつけると、ついに、

 ベクターに向けていた銃の引き金を引いた――――――


かちり


「・・・・?!」

 クロウは驚いて 手に持っている銃を見た。
銃はまぬけな音を出すだけで、何も起こらなかったのだ。

「・・・・弾切れ・・・・。
 まさか、お前―――― 」
「だから言ったろ? ・・・俺もエスピオも死にゃしないって」

 ベクターは愕然とするクロウに、勝ち誇ったような笑みを見せた。

「依頼人の家には 銃やら剣やら、色々護衛用の武器が揃っていたようだが・・・
 まさか 命を狙われていると知ってて、その武器をそのままにしておくと思うか?
 盗まれるのを予想して、銃の弾を抜いておくか、銃に入れる弾を少なくするか、
 どっちかの行動を取るはずだろ。
 ・・・依頼人は、弾を少なくする行動を取ったようだが」

 ベクターは一歩踏み出し、話を続ける。

「その銃の中に入っていたのは、どうやら四発分だったようだな。
 だが、お前さんは最初に依頼人に向かって三発撃った時、
 コレはアタリだ、と勘違いしちまったようだな。
 まだまだ弾が入っていると勘違いしたまま その銃で戦いを続けたが、
 その時にはすでに一発分しか残っていなかった。
 それを知らずに、肝心の最後の一発は―――― エスピオを攻撃するのに使っちまった」

 ベクターはエスピオの足を見た。 そこには、撃たれた痕がある。
ベクターはエスピオが撃たれていたのに気がついていたようだ。

「・・・なぜ、俺がこの家の銃を盗んだのが分かった?
 なぜ、この銃に入っていた弾の数が分かった?」
「お前さんみたいな一般人が、そんな危険なもの持っているわけないだろ。
 お前さんはスピードも速いし、捕まる心配もない。 そんなもの盗むことぐらい、朝飯前だろ?
 ・・・ま、剣をも盗んだのは予想外だったがな」

 苦笑いをし、ベクターは頭を掻く。

「・・・弾の数は、ただの賭けだ。 俺が依頼人だったら、って考えてな。
 銃の中の弾を少なくするんだったら、俺だったら 4,5発が無難なトコかな、って考えて それに賭けてみただけだ」
「・・・・!!」

 クロウは彼の言葉に唖然とした。
もし、銃に5発 弾が入っていたとしたら―――― 彼は死んでいた。

・・・・それなのに、彼は 自信に満ちた表情でいたのだ。
    死を恐れず、自分の考えに全てを賭け、自信に満ちた表情で 答えを待っていたのだ。

「(コイツ・・・命を懸けるなんて・・・・どういう神経してやがる・・・・)」

 クロウは ギリッ、と歯を食いしばった。 ・・・ベクターの推理は、完全だった。
だが、まだ あちらのほうが不利だ。
 クロウは 余裕の表情を浮かべ、口を開いた。

「・・・悪いな、まだ俺には 剣という攻撃方法が――――― 」

 そう言い、剣を取り出そうとした・・・その時だった。

―――― うっわー! このけん、かっこいいねぇー!
 ぼくもこんなのつかってみたいなぁ~!」

 クロウの後ろから、元気で明るい子供の声が聞こえた。
ビクリと体を震わせ、後ろを振り返ると――――

「・・・・!!!」
「チャーミー?!」

 ベクターはクロウの代わりに、驚いて声を上げた。
そう、いつの間にかクロウの後ろにいたのは 『チームカオティクス』の一人である、チャーミーだった。

「! それは、俺の・・・・!!」

 クロウは声を上げた。 ・・・確かに、さっきまで自分の手元にあったはずなのに。
チャーミーの手には、クロウが使っていた剣が握られていたのだ。
 蜂の子供は、宙を舞いながら 悪餓鬼のように ニッ、と笑った。

「べくたーにきぃとられて ぼくのことにきづかなかったみたいだね♪
 たたかいがおわるまで、ぼくのでばん なさそうだったからさ、
 このけん けんぶつしてよーとおもって!
 かってにかりちゃった~」

 クロウはチャーミーの言葉に唖然とした。

・・・・戦いが終わるまで 見物、だと?!
   それに、ちゃんとしまっておいたはずなのに・・・どれだけ盗むのが得意なんだ・・・!?

「オイ チャーミー! 今回はグットタイミングだったが・・・
 人のモン盗むんじゃねぇって言ってんだろ!!;」
「いーじゃん、けっかおーらいだったんだし! すこしだけだって♪」

とても楽しそうに、チャーミーは剣を持って飛び回る。
クロウは取り乱しそうだったが、深呼吸をして 心を静めた。

「・・・まだこっちには勝機があるんだぜ?」 ぐい、と クロウは掴んでいた腕を引っ張り、エスピオを持ち上げた。「忘れたか?
 こっちには人質がいるんだ。
 ・・・てめぇらに勝ち目はない」
「あいにく 俺は余計な心配はしないほうでな」 ベクターは余裕の表情を見せ、にやりと笑った。「俺がどうにかしなくても、
 エスピオがどうにかしてくれる」
「何言ってんだ、こいつは気を失って―――――― 」

 クロウは笑みを浮かべたまま またエスピオの腕を引っ張ろうとした―――― その時だった!


―――― パシン・・!!


手が、振り放された。


「何・・・・っ?!!」
「はぁぁ・・・・ハァッ!!!


 ドゴォッ!!!


 エスピオは体勢を整えると同時に、クロウに回し蹴りを食らわせた。
クロウは防御もままならなく、直撃をくらい 吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。
 ――― そう、エスピオの意識はとうに戻っていたのだ。

「・・・ッ、クソッ!」

 クロウはすぐに体勢を整え、チームカオティクスの方へ向かおうとした。
―――― だが。



「・・終わりだ。 クロウ・ザ・ウルフ」

 エスピオはクロウの前に立ちはだかり、そして――――
クロウの首元に、クナイをつきつけた。

「・・・どうだ?」 ベクターは口を開いた。「どんな力を持ってしても、俺達にはかないはしない。
 どんなヤツが相手でも、チームワークで切り抜けてみせる。

 ――――― そう、それが俺達 『チームカオティクス』だ!」

 ベクターはガッツポーズをきめ、にやりと笑って見せた。
チャーミーは喜ぶように くるり、と空中で一回転する。
 そんな二人を見て、クロウは呆然と彼らを見つめ、そして 笑みを浮かべた。

「・・・・・完敗だ、『チームカオティクス』・・・・・」

 クロウは諦めたように、軽く息を吐いた。
どうやら、負けを認めたようだ。
 ・・・あとは、クロウを捕らえれば 任務完了だ。
 だが・・・

「・・・・エスピオはどうするつもりだ?」

 ベクターはエスピオのほうを向いて 問いかけた。
そう、エスピオはクロウを倒しに、仇を討ちにここに来たのだ。
それなのに 自分達で勝手に話を進めるのはよくない、と ベクターはそう思ったのだ。

「無論―――― 」 チャキ、と エスピオはクナイを持ち直した。「クロウを殺し、仇を討つ」

 エスピオの眼差しは、真剣だった。

「・・・だが、エスピオ」 ベクターは口を開く。「もし お前がクロウを殺せば、
 俺達はお前を捕まえて、刑務所に連れて行かなきゃなんねぇ。
 事情がどうであれ、人殺しは罪だ。 ・・・俺達は、罪人となったお前を放ってはおけない。
 その時はきっと、戦うことになるだろう。
 それでも、いいのか?」
「・・・戦う必要はない。 自分が仇を討ち、クロウを殺した時は・・・
 自分は素直に、ベクターたちの言うことを聞く。
 罪は、償うつもりだ」

 エスピオはそう言うと俯いた。
ベクターたちの方からだと、エスピオの表情は見えなかった。
だが、その顔を予想することは出来た。
 きっと、彼は・・・・悲しい顔をしているだろう。

 ベクターたちは止めることが出来なかった。
彼の決心は、固かった。
それだけ、彼の心についた傷は とても深いものなのだろう。

「・・・クロウ、異論はないな」
「何言ってんだ、今更。
 ・・・・俺は、お前の母親を殺したんだからな」

 悲しい笑顔を見せ、クロウはそういった。

「・・・えすぴお・・・くろう・・・」

 チャーミーは悲しそうに、ぽつりと声を漏らした。


 ・・・重い沈黙が続く。


「・・・・・・」

 エスピオはクロウにクナイをつきつけたまま、目を閉じた。




 『・・・そんなことしても、お前さんの母親は喜ばない。 そんなこと、願ってもいないだろう・・・』 


  ベクターはそういった。 でも・・・――――



 ―――― 『そんなことすれば お前さんの母親は、・・・ただ、悲しむだけだ・・・』 




     でも、自分は――――




 思い立ったように、エスピオは目を開いた。
エスピオはクナイを構え、そして――――― 母親の仇に、クナイを振り下ろした。


  ・・・・・その時だった。



―――― 俺の父親は、お前の父親に殺された」



「・・・何?」

 エスピオは反射的に、ピタリと手を止めた。

「俺の父親は、お前の父親に殺されたんだ」
「・・・何を、言っている?」 エスピオは眉をひそめた。「どういうことだ?」

 クロウは視線を横に向け、エスピオと目が合わないようにし 話をし始めた。

「お前の父親は、俺の父親を殺した。 きっと、俺の父親がお前の父親を差別して、そこから喧嘩になって 殺しちまったりしたんだろうな。
 人殺しをしたのにもかかわらず、お前の父親は捕まらなかった。
 警察は調査を続けたが、結果は実らず―――― 結局、事件は未解決のままで終わっちまったんだ。」

 今度は視線を地面に向けると、クロウは話を続ける。

「だけど、俺の母親は勘付いていた。 お前の父親が、俺の父親を殺したんだってことが、わかっていたんだ。
 だが、証拠もなく、警察も認めてくれなかった。 ・・・そのまま、事件は幕を閉じた。
 それに憎しみを感じた俺の母親は―――― 」

 目を閉じ、そしてクロウは顔を上げ エスピオに視線を合わせる。

「復讐という言葉に操られるように―――― 俺の母親は、お前の父親を殺した」

 冷や汗がエスピオの頬を伝う。 口の端を上げ、エスピオは口を開いた。

「な・・・にを言っている? 自分の父親は、病で亡くなったのだぞ?
 そ、れに 父上が 殺人、など、と・・・・」
「信じるも信じないも、お前次第だけどな・・・」 クロウは再び目を伏せた。「・・・だけど、
 俺の言っていることは・・・本当だ」

 エスピオは手が震えるのを抑えきれなかった。
まさか、自分の肉親が 殺人を犯すなんて・・・・
 黙り込んだエスピオに、クロウは話を再開した。

「・・・お前の父親が殺された事件は、すぐに調査された。 しかし・・・
 それもまた未解決で終わってしまった。
 だが、それでも お前の母親は、犯人を捜し続けた。
 見つけたら、復讐してやる、と・・・・」

 嫌な予感がした。
 次のクロウの言葉がわかってしまった。

「・・・ま、さか・・・」

 エスピオは驚愕に目を見開いた。

 次の言葉を聞きたくない。

「・・・お前の母親は、ついに犯人を見つけ出した。」

 聞きたくない

「俺の母親が犯人だってことを見つけ出してしまったんだ。」


 聞きたくない・・・っ


「そして、お前の母親は――――― 」






「・・・・・ッ嘘だ!!!!」


 エスピオは叫んだ。

「母上がそんなことするはずがない! あんなに優しかった人が、そんなこと・・・!
 嘘に決まっている! こんなの・・・作り話だ!!」
「・・・これが嘘だとしたら、俺は お前の母親を殺しはしない!!」

 クロウの怒鳴り声に、エスピオは我に返った。

「俺がお前の母親を殺したのは、俺たちの親同様、復讐のため・・・仇を討つためだった。
 いつか お前は俺を殺しに来るだろうと考え、殺される前に殺してやろうと 俺はお前をも殺すことにした。
 そうすれば、全てが終わる」

 クロウは辛そうに、悲しそうに笑みを浮かべた。

「・・・情けないな・・・
 お前も、俺たちと同じ様に 今、俺を殺そうとしている・・・・。
 俺の両親も、お前の両親も、俺も、そしてお前も・・・『復讐』という糸で、操られたんだな・・・」

「・・・・!」

 エスピオはハッとした。

いきなり 両親が殺人を犯したと告げられ、そして その殺した相手が、クロウの両親。

 自分も同じなのだ。
自分の両親と同じなのだ。
今 クロウを殺そうとしている。

仇を討つために、復讐をするために。
復讐という糸で操られて―――― 。

「・・・・さぁて、俺の話はここで終わりだ」 クロウは無理に笑みを浮かべる。「早く殺れよ。
 ただし、一発でしとめろよな。 痛いのは御免だ」

 無理に作った笑みは、悲しい笑みだった。
エスピオはクナイを持ち直し、クロウの首元につきつけているのを確認する。



 ―――― 『そんなことすれば お前さんの母親は、・・・ただ、悲しむだけだ・・・』 



「・・・・・・」

 クナイを構えたまま、エスピオは目を閉じた。
様々な言葉が、脳裏によぎる。




 ―――― 『だが、それでも お前の母親は、犯人を捜し続けた。
       見つけたら、復讐してやる、と・・・・』 




 ―――― 『俺がお前の母親を殺したのは、俺たちの親同様、復讐のため・・・
       仇を討つためだった。』 





 ―――― 『俺の両親も、お前の両親も、俺も、そしてお前も・・・
       『復讐』という糸で、操られたんだな・・・』 




 エスピオは目を開いた。
クナイを再び持ち直す。






―――――― 許してほしかったのだ、自分を


          仇を討って、
          こんな自分を
           母上を見殺しにした 情けない自分を許してほしかったんだ――――






 ―――――― ドスッ!


「・・・・ッ!」

 クナイが刺さった、鈍い音がした。
クロウは反射的に目をつぶっていた。

 ・・・・・痛みは、ない。

「・・・・・え・・・・・?」

 目を開けたクロウは、思わず声を漏らした。
体のどこにも、クナイは刺さっていない。
ゆっくりと地面に目をやると、足元にクナイが突き刺さっていた。
 エスピオの手から放たれたクナイは、地面に刺さり 草を散らしていた。


「この『復讐』という物語―――― 自分がこの手で、終止符を打とう」


「・・・・なっ・・・・?」 クロウは驚愕に目を見開いた。「何で・・・・
 何で、殺さなかった?
 俺は・・・・お前の母親の仇・・・・なのに・・・・」
「自分は、自分の意志で動く」

 エスピオは目を伏せ、クロウに背を向けた。

「自分は 『復讐』という言葉に、操られたりはしない。
 自分の手で、その『復讐』という糸を断ち切る。
 ・・・・それに―――― 」

 そういうと、エスピオは一つのお守りを取り出した。
母親の形見。
たった一つしかない、小さなお守り。

「母上は、そんなことをしても喜ばない。
 ・・・・ただ、悲しむだけだ・・・・」

 クロウは面食らったように驚きの表情を見せ、エスピオを見つめた。
ゆっくりとエスピオは振り返る。
 決意を固めた目でクロウを見て、エスピオは最後にこう言い残した。


「貴様の罪―――― 牢の中で償うがいい」








 数分後、警察が来た。
恐らく、戦いが終わったのを知った依頼人が呼んでくれたのだろう。

 カチリとクロウの手首にはめられたものは、手錠。
何の抵抗もせず、何を話すわけでもなく、クロウは黙って微笑んでいた。
長年未解決だった事件が、幕を閉じた瞬間だった。





「・・・にしても、所長さんよ」

 クロウは、パトカーのドアの前で立ち止まり、振り返った。
彼を見送ろうとしていた『チームカオティクス』の所長は、きょとんとした顔で彼を見つめる。

「お前の推理、すごかったぜ」
「ん? あ、ああ・・・アレな・・・」 ベクターは苦笑いしながら頭を掻いた。「はっはは、
 推理、ねぇ・・・・。
 ほとんど、運だったんだぞ アレ」
「う、運?!」

 クロウは驚いて、素っ頓狂な声を上げた。

「ああ。 弾の数は推理したんだがな・・・・そっからは運だったな。
 チャーミーの行動は予測してなくて俺も驚いたし、あの時エスピオが気絶しっぱなしだったら 今頃どうなってたことやら・・・
 行き当たりばったりで、あれでもかなりピンチだったんだぜ?」

 クロウはその言葉に呆然とした。

 どんだけの運の持ち主なんだ、コイツは。
 ・・・・全く、コイツらには 驚きっぱなしだな・・・


「・・・・ほんっとに、

 本当にサイコーだぜ、『チームカオティクス』!」


 ニカッ、と 満面の笑みを見せると、クロウは背を向け パトカーに乗り込んだ。
扉が閉まり、エンジンが入る。
灰色の煙を吐き出しながら、パトカーは走り出した。

 別れだ。

 三人は、彼の乗ったパトカーを見送った。
 次第に、パトカーは見えなくなっていった。





「・・・でさ~、えすぴおは これからどうするの?」

 クロウを見送り、報酬を貰い 怪我の手当てをして 全てを終わらせた その帰り道。
夕焼けで橙色に染まった空の下で、チャーミーはエスピオにそう尋ねた。

「自分はもう、やることがなくなった。
 故郷に帰り、静かに暮らすとするつもりだ」

 エスピオは羽をはばたかせて飛んでいるチャーミーのほうを向き、そう告げた。

「短い間だったが―――― 別れだ」
「そっか~・・・、ざんねんだなぁ~・・・」

 しょんぼりとするチャーミーを見て、エスピオは苦笑いをした。
仕方ないことだ。

結局、『チームカオティクス』に入るための条件―――― 任務を遂行し、役に立っていればカオティクスメンバーとして採用するという 条件を果たすことは出来なかったのだから。
それに加え、みんなの足を引っ張るという結果となってしまった。
確実に『チームカオティクス』には入れてもらえないだろう。

 と、そう思っていた その時だった。

「・・・ああん? 何言ってんだよ、エスピオ」
「?」

 ベクターの素っ頓狂な声に、エスピオはきょとんとした顔で彼を見上げた。

「途中下車は許さないぜ?」
「おぬしこそ何を言っている? ・・・言っただろう?
 おぬしらの足を引っ張ってしまったら、自分はカオティクスには入らずに ここを去ると・・・。
 それに、自分の種族は忌み嫌われているのに・・・・」
「バッカヤロウ エスピオ!」

 ベクターは ニッ、と笑うと エスピオの肩をバシバシと叩いた。

「種族の違いなんて、俺が気にするとでも思ったか?
 それに、さっきの依頼人だって そんなに嫌な顔もしてなかったし・・・。
 昔の話は昔の話だ! てめぇなんかにゃ関係ねぇってことさ!」

 愉快そうに笑うベクターを見て、エスピオは痛む肩を抑えながら 上目遣いで彼を見つめた。

「・・・種族の違いなんて全然気にしちゃいねぇ。 ただ、お前を試してただけさ。
 俺が見ていたのは 行動力、判断力、推理力、そして強い意思!」

 ベクターはエスピオを見下ろすと、言葉を続けた。

「依頼人に向けて発砲した銃の弾を お前は一足先に見抜いたし、
 クロウを逃がそうともしなかった。 最高の行動力だ。
 それと、クロウに捕まっていた時の判断力と推理力。
 意識が戻ったとき、無理矢理クロウから離れようともせず、
 冷静に対処し、隙を狙った。 判断力も推理力もバツグンだったと思うぜ。
 ・・・あと、もう一つ」

 エスピオは面食らったような表情をしたまま、ベクターの言葉を聞いた。

―――― お前が真実を知ったときだ。
 お前はクロウを殺さずに、自分で『復讐』という糸を断ち切った。
 自分の意思を貫いた」

 ベクターはまた ニッ、と笑うと もう一言付け足した。

―――― 感動するほどの強い意思だったぜ?」

 エスピオは唖然とし、そして 少しずつ笑みを浮かべた。
ちゃんと、見ていてくれていたのだ。

「それじゃあ・・・自分は、カオティクスに入っても・・・?」
「そりゃー、だいかんげいだよー! ね、べくたー?」

 ふわりと チャーミーはエスピオの目の前に来て、満面の笑みを浮かべた。

「おう! もっちろん 大歓迎だぜ!」

 ガッツポーズを見せて、ベクターもまた 最高の笑みをエスピオに向けた。

「チャーミー・・・ベクター・・・」




 今まで忌み嫌われ、差別を受けていた自分。
 そのせいで 全てを失ったと思っていた。
 そのせいで 全ての人生が崩れたかと思っていた。


 ――――――― だが、それは違う。
             自分はあの辛い過去があったからこそ ここにいて

             『クロウがいたからこそ』 ここにいて
             そして、目の前には




     自分を受け入れてくれる、仲間がいる





「・・・ありがとう・・・」

 優しい微笑みを浮かべ、エスピオはそう言った。
今まで出会ってきた、全てのものに。





  ・・・意外と、崩れたと思ったこの人生も 良いかもしれないな・・・






 そして、この物語は 現代へと続く――――――





Back   NEXT