これは、カオティクス探偵事務所の昔の話。
二人の仲間と、あるカメレオン族の話である。



Team Chaotix  -前編 『ある訪問者』-




「・・・ハァ・・・、ハァ・・・っ」

 体が重い・・・。 意識は朦朧とし、足がふらつく。

「(・・・っ、体力の限界、か・・・。
  自分もまだ、修行が、足りぬ・・よう・・だ・・・。)」

 そう考えたと同時に ガクン、と足の力がなくなり、街の歩道の真ん中に倒れてしまった。









「かおてぃくすたんてーじむしょに はいってみませんかー!?
 はいりたいひとはぜひ、かおてぃくすじむしょに おこしくださーい!!」

 ミツバチ族の子供―――― チャーミーは街の中、羽をパタパタと揺らして浮遊しながら、一人カオティクス事務所のメンバーの募集をしていた。
彼はこれでも、カオティクス事務所のメンバーの一人である。
依頼がくれば、彼の仲間 ベクターと共にあっという間に片付けてしまうほどの力の持ち主だ。

 ・・・が、この頃は依頼自体入ってこなかった。 やはり、メンバーが二人だけでは心許ないのだろう。
 と、いうことで チャーミー一人、メンバーの募集をしているのだ。
ベクターは事務所の所長なので、滅多な事がない限り事務所から離れることはない。 「万が一のことに備えて、留守番をしている」・・・というのは、ベクター談。
なので、メンバー探しはチャーミーに任せてあるのだ。

 ・・・とはいうものの、よく考えれば 自分だけ体力を使って ベクターだけ休み得をする・・・とはなかなか 納得いかないものだ。
 チャーミーは仕事をしながらも、ブツブツと文句を言っていた。

「べくたーは せこいなぁ・・・。 しょちょーだからって、いつもぼくに しごとおしつけてさー。
 ぼくだって こんなきおんたかいひに そとなんか でたくないのに・・・。」

 チャーミーは前へ進みながら、空を見た。 太陽は元気がよく、嫌なくらいに暑い日差しを 街に降らしている。
今は真夏の真っ只中で、気温がかなり高い。 最高気温は・・・なんと、42度。
 それにプラスして、蒸すような暑さ・・・誰も外には出たくない状況だろう。
そのためか、人はいつもより少なかった。
 まぁ、人がいる分 やりがいがある、というか何というか・・・。

「あっつ~・・・はやくよるにならないかな~・・・
 あっ、きょうは ぽ○もんの すぺしゃるだったっけ・・・。」

 何か敵に回しそうな番組名を口に出し、チャーミーは言葉を続けた。

「・・・でも、きょう でんきとめられそうだな~・・・」 そう独り言を呟いていた、その時だった。「・・・ん?」

 チャーミーはあるものを発見した。 ・・・・というか、ある『者』を発見した。
見覚えのない、紫色の体をした カメレオン族だった。
 その者を見たとき、チャーミーは驚いた。 そのカメレオン族は ぐったりとして道に倒れていたからだ。

「だっ、だいじょーぶ!?」

 チャーミーは地面に降りて、その者の体をゆすった。 が、返事は返ってこない。
意識は失っているものの、息はとても切れていた。

「しっかりしてよぉ!!」

 街の人は、チャーミーがそう叫んでいる様子にも気にかけずに 通り過ぎていっていた。





「・・・ったく、面倒ごと増やしやがって・・・。」

 はぁ、と ため息をついて ベクターはその者の額に タオルをのせた。

 ここは、カオティクス探偵事務所。 あの後、チャーミーは一人でそのカメレオン族をつれてきたのだ。
「もとあったところに捨ててきなさい!」と 捨て猫のように扱うことも出来るわけがなく、仕方なく事務所で休ませることにした。
 事務所の玄関のドアのドアノブには『準備中』という看板がつるされてある。
 あれからだいぶ時間がたっているが、その者は一向に目を覚まさない。

「・・・・このひと、だいじょーぶかなぁ・・・」
「なぁに、旅の疲れが出ただけだろ。 そんな心配するなって。」

 心配そうにその者の傍らに座っていたチャーミーの隣に、ベクターは座る。
そして チャーミーを安心させるように、ベクターは微笑んでみせる。

「・・・しっかしまた、お前は面倒ごと増やすなぁ~・・・」
「『また』って どういういみだよぅ」
「お前ナァ!; ・・・お前、前に一度 人のモン盗んで面倒ごと増やしたろ!
 あれの後始末、大変だったんだからな!」
「まったくもー、べくたーはおっちょこちょいなんだから~」
オマエがだよ!!

 ベクターは思わず 声を荒げてしまった。 チャーミーは反省の色ひとつ出さず あはは、と笑っているだけだった。
さすがにベクターは呆れ、はぁ、と 大きなため息をついた。

「(全く、ガキの世話は大変なこった・・・)」

 ベクターがそう思った、その直後だった。

「・・・・っ、うう・・ん・・・」

 何者かの呻き声が聞こえた。 チャーミーはそれに気が付くと、嬉しそうに顔を輝かせた。

「おきた!」
「・・・、自分は・・・。 ・・・おぬしは・・・? ・・・!!!」 自分の知らない者に ハッ、と気が付くと、ぼーっとする頭を 無理にたたき起こし、周りを見回した。「・・・こ、ここは・・・!!?」
「目が覚めたみてぇだな。」

 ベクターの声に、その者はますます 驚いた。

「・・・お、おぬしは・・・!?」
「俺の名は ベクター・ザ・クロコダイル。 で、そっちのガキはチャーミー・ビーだ。
 俺はここ、カオティクス事務所の所長で、チャーミーはその仲間だ。」

 ベクターはそう チャーミーを含め 自己紹介をした。
隣で「がきってなんだよー!」と わめいていたが、ベクターは気にもとめない。

「・・・んで、お前さんは?」
「あ・・・自分の名前?」 その者は一瞬驚いた。名前を聞かれるのは初めてだったからだ。「・・・自分は、
 エスピオ・ザ・カメレオン・・・。」

 その者―――― エスピオは、自分の名をなのる。

「・・・ところで、『カオティクス』というのは・・・?」
「ぼくらも ゆーめーじゃないねぇ~」ベクターの代わりに チャーミーが答えた。「かおてぃくす―――― いつもは、『ちーむかおてぃくす』って  よんでるんだけどね―――― ぼくらは、ほーしゅーさえみあえば なんでもやる、っていう たんていなんだ。
 もちろん、いらいだからって あくじをはたらかせることは しないけどね。」

 チャーミーは笑いかけながら そう話した。

「なんでも・・・」 エスピオは何か考えた後、質問した。「具体的にどんな事をやっているんだ?」
「ん~・・・そうだな~・・・」 と、ベクター。「報酬にもよるが、人探しとか、護衛とかだな。 ま、色々だ。」

 そう聞いて、エスピオはまた考えた。
報酬さえあれば、どんな事でもやる。 そう、それが『チームカオティクス』・・・

 ・・・・カオティクスのメンバーになれば、『奴』に会えるだろうか?

 エスピオは決心した。

「そういえば・・・、ここはメンバーを募集しているようだが?」
「あれ? きこえてたの?」

 エスピオは チャーミーの言葉に、「ぼんやりと、な」と答える。
チャーミーは少々驚いたような表情だったが、ハッと気が付くと 期待の眼差しをエスピオに向けた。

「もしかして、もしかすると・・・!?」
「・・・ああ。」 エスピオは頷く。「・・・自分を、『チームカオティクス』に入れてはくれぬか?」

 エスピオは立ち上がり、そして 所長――― ベクターを見た。
それを聞いた途端、チャーミーは「やったー!」とはしゃぎ、ベクターに聞いた。

「よかった、はいってくれるひとがいてー!
 ねね、ベクター、もちろんおーけーだよね!?」

 チャーミーは、わかりきっている言葉を待った。

「・・・ああ!」 ベクターは頷く。「もちろん、快く・・・・・・と、言いたいところなんだが・・・・。」

 ベクターの言葉に、二人は首をかしげた。 エスピオは違うが、チャーミーは「もちろん、快く歓迎するぜ!」といってくれると 思っていた。
 だが、しかし・・・・

「・・・すまないが、エスピオ・・・・
 ―――――― 断る。」
「・・・なっ・・・!!?」

 思わぬ発言に、エスピオは思わず 声を荒げた。
チャーミーは当然のごとく、驚く。

「聞いておくが・・・」 と、驚くエスピオにベクターは声をかけた。「・・・お前さんは 自分の種族の違いを知ってて言ったのか?」
「・・・・!!!!」

 エスピオは ハッと目を見開き、そして俯いた。 まただ、というように。
もちろん、チャーミーは 話についていっていない。

「べくたー! しゅぞくのちがいって どーゆーいみだよ!!」
「チャーミー・・・お前は知らないと思うけどな・・・ エスピオの種族は昔、戦争を起こした種族なんだ。 もちろん、土地を独り占めにするためにな・・・。
 今はもう戦争はなくなったものの、それで多くの人々が犠牲になった。
 だから今でも、また 戦争を起こすんじゃねぇか、とか思われてて 凶暴な種族として忌み嫌われているのさ。少なくとも、良い印象はねぇな。」
「だからって、それがどうしたって いうのさ!」

 チャーミーは思わず怒鳴ってしまったが、ベクターは冷静な声で こう返した。

「わかんねぇのか、チャーミー。 ただでさえ ここの事務所の評価が下がっているのに、こいつが入ったら ますます  評価が下がっちまうだろ。 そうなったら、今度こそ依頼もこなくなって、飯も食っていけなくなっちまうぞ?」
「だけどさぁ!!
 ・・・・・・・。」

 チャーミーは言葉を続けようとしたが、その言葉が思いつかなかった。
ベクターの言葉は、確かに正しかった。
 だが、必死にチャーミーは対抗した。

「だからって、そんな さべつしてさぁ!
 ちょうど めんばーぼしゅうしてるのに、えすぴおだけ そんなあつかいするなんて―――― 」
――――― 有り難う、チャーミー。」

 チャーミーの言葉を、エスピオが遮った。
そのエスピオの顔は、少し悲しそうに見えた。

「・・・なんと言おうと、自分を仲間に入れることはできぬか?」
「ああ、できないな。」
「・・・・・。  そうか・・・」

 呟くようにエスピオはそう言うと、玄関の扉へと歩いていった。

「えすぴお・・・」

 チャーミーは悲しそうに エスピオの背を見つめる。
 エスピオは ドアノブに手をかける。
・・・と、その時だった。

「・・・ベクター。」
「?」

 エスピオは背を向けながら、ベクターに声をかけた。
ベクターは きょとんとする。

「一度だけ・・・」 エスピオはそう言うと 振り返った。「・・・一度だけでいい、
 自分にチャンスをくれないか?
 一時的に『チームカオティクス』に入り、任務を遂行する。 その時、もしも自分が役に立っていれば カオティクスに入れてほしい。
 だが、もしも おぬしらの足を引っ張っていれば・・・自分はここを去ろう。」

 無理を承知の上で、エスピオは頼んだ。 当然、断られると思った。
・・・・だが。

「・・・っしゃーねぇな!」 ベクターは ニッ、と笑った。「『チームカオティクス』に入れるチャンスをやろう!
 ただし、一度だけだぞ。 ・・・・わかったな。」

 その思いがけない言葉に、エスピオはきょとんとしてしまった。
その後、エスピオ、そしてチャーミーも 明るい顔になった。

「有り難う、ベクター!」
「さっすが べくたー! おとこまえー!」
「まーなー♪」

 得意げに、ベクターは笑った。



こうして 一時的ではあるのだが、チームカオティクスに入ったエスピオ。
ベクターはエスピオを認めてくれるだろうか?





そして あれから二週間がたった頃、
一本の電話が、鳴り響いた。



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